殿!御中でござる!

2023年11月某日。新潟市近郊の、とある山寺の道場で、にお師匠と継子のカナヲは、向かい合って座っていた。にお師匠が厳かに言った。
「カナヲや。お主が我が道場の門を叩いてから、はや3年が経とうとしている…お主ももはや新人ではない。これからは我が道場の中堅どころとして、道場を引っ張っていってもらいたいと、わしは思っておる」
「ははーっ、ありがたき幸せにございます」
そう言ってカナヲは頭を下げた。
「それでは、お主がどのくらい成長したか、わしに見せてみるのじゃ」
にお師匠は、持っていたクリアファイルをがばっと開いた。大量の書類がクリアファイルから一斉に飛び出し、ぐるぐると宙を舞った。カナヲは目を見張った。「こ、これは、請求書に領収書!もしかして師匠!これらの書類が、インボイスに該当するのかどうか、判断をつけろと仰るのですか!?」
にお師匠はニヤリと笑った。
「ふふ、その通りじゃ。半年も前から所内研修会を開いて、インボイス対策の勉強をしてきたじゃろう。お主は、勉強してきたことが、ちゃんと身についているかな……それ、行くぞい!」
にお師匠が手をあげると、1枚の紙がひらひらとカナヲに襲いかかった!
「これは!T北電力の明細書!一見インボイスに見える…でも、T北電力のインボイスは、ウェブ上で登録しないと取得できなかった筈…いや、違う」
カナヲは明細を食い入るように見つめた。
「検針日が9月の日付になっている!これはインボイス、つまり『適格請求書』ではなくて、従前の『区分記載請求書』です!だから、これは100%仕入税額控除ができます!」
「ふふふ、よくその判断がついたな。では、これはどうじゃ!」
にお師匠は、A4サイズの書類をカナヲに向かって飛ばした。
「これは!某巨大プラットフォーム『A』の領収書!しかしタイトルが『適格請求書』ではなく『仕入明細書』となっている!ということは、実際の取引相手は免税事業者です。師匠、これはインボイスではありません!」
「ふふふ、これも分かったか。では、最後はこいつじゃ……!」
小さな水色の領収書が、カナヲに襲いかかった!カナヲはかっと目を見開き、領収書を見つめた。
「これは、某コインパーキング『T』の領収書!ふっ、こんなの、余裕ですよ…きっと他の領収書と同じく、下のほうに登録番号が…」
カナヲは愕然として叫んだ。
「ない……登録番号が、どこにも書いてない!そんな馬鹿な!」
「カーーーーッ!!!馬鹿者!修行が足らん!!」
にお師匠が怒った。
「カナヲよ、お主はその動体視力にばかり頼っておるな。よいか、もっと心を落ち着けて、心の目で見るのじゃ」
カナヲは精神統一し、心の目でその領収書を見た……カナヲがハッと目を見開いた!
「あーーっ!何ていうことだッ!模様かと思ったら……登録番号が、まさかの、模様になっているッ!!!」
にお師匠はふっふっふと笑った。
「やっと分かったか、カナヲよ…このように、修行の道は果てしなく険しいものじゃ。今後も精進するのじゃぞ」
「……ははーっ」
カナヲは頭を下げた。

※事実を基に、脚色してあります。

そんな訳で、こんにちは。税理士のニオムラです。

インボイス制度がついに開始されてから、はや2ヶ月半が経ちました。全国の同業の皆さま、経理事務の皆さま、本当にお疲れさまです。

インボイス制度が始まって、事務負担が増えるというのはとっくに分かっていたことなのですがね、意外と手間取るのが、「領収書(請求書)」のどこに登録番号が載ってるか、探し出す作業なんですよね。法律上は、その書類のどこかに登録番号が載ってりゃOKなので、みなさん思い思いの場所に番号を記載してこられている。どこかに載っている筈の番号を、必死こいて探しながら、(はて……この時間は、一体何の時間なのだろう)と、なんとも空虚な気分になっているのは、わたくしだけではありますまい。

しかも、登録番号がハガキの裏に書いてあったりすると、スキャナ保存とかしているようなところでは、書類をきちんとスキャンしたつもりが、肝心の登録番号が載ってる裏面がスキャンされてない!という、ちょっとしたトラップになっていることもある。

今更ですが、例えば必ず事業者の名前のすぐ下に番号を記載する、とかのルールにすれば、番号を探すために、こんな空しい時間を費やす必要もなかったのではないか?と思う今日この頃であります。ま、それも実際は難しいんでしょうけどね。皆さんそれぞれのフォームが元々ありますから。

しかし、事務作業の効率化は、日本の、特に中小企業の大きな命題となっている訳でありまして。我々の業界で言えば、少し前から「ダイレクト納付」の推進が盛んに叫ばれているところであります。

ちなみに、きみは、「ダイレクト納付」を知っているか!?「ダイレクト納付」とは…「ネット上で税金を納められる仕組み」のことであります!

元来、税金の納付書を手書きで記入して、それをわざわざ銀行の窓口に持っていって納税する必要がありましたが、この「ダイレクト納付」を使えば、ネット上でちゃちゃっと納税ができちゃうのであります。

そして何を隠そう、ニオムラ事務所では、何年も前から「ダイレクト納付」を積極的に推進してきたのであります!ドヤッ!!いや、別にドヤるようなたいしたことではないんですけどね(・∀・)

特に、比較的若い年代のお客様は、こりゃ便利だと、皆さん大層喜んでくださってます。大企業に比べて生産性の低い中小企業が今後も生き残っていくためには、事務手続きの効率化はとても大事なことでありますから。

事務の効率化の観点で言えば、実はわたくしには、本日この場をお借りして、是非とも提言したいことがあるのであります!!

と、高らかに宣言したところで、早速わき道にそれますが、「〇〇の観点」っていう言い回しを、近年よく耳にするようになった気がするのは、わたくしだけでしょうか。それも特に2020年以降ですな。「新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、……」みたいな文章とか報告を、いろんなところで見たり聞いたりした記憶があります。特にえらい人がこの表現を好んで使うようなイメージがありますが、わたくしはこの「〇〇の観点から」っていう言い方が、あんまり好きくないのであります。

「感染拡大防止のために」じゃダメなの?なんなの、「観点」て?

なんでしょう、「僕は個人的にはそこまででもないんだけどね、そういう見方もあるみたいだからさあ」みたいな、ちょっとした逃げ道を作ってる感が、なんか気に食わんのじゃ!
あれ?わたくしだけですかね、そんなねじ曲がったこと考えてるの。

おっと、ついつい熱くなってしまいましたが、本題に戻ることといたしましょう。
事務の効率化の観点から、わたくしには一つ、言いたいことがあるのであります。わたくしの提言したいこととは……何を隠そう、長年日本のビジネスパーソンたちを悩ませてきた、「御中」問題についてであります!!

奇しくも、これを書いている2日前、12月14日は、赤穂浪士の討ち入りの日……赤穂浪士と言えば「殿中でござる!」という台詞が有名ですが、忠義に身を捧げた赤穂浪士たちに思いを馳せ、わたくしもあえて、「御中」問題に斬りこんでいきたい。

連絡手段としてメールやチャットが一般的になり、文書でやりとりする機会は以前よりずっと減ったとはいえ、まだまだ仕事で文書のやりとりをすることがあるのでありますが、あれをそろそろやめないか!?

返信用封筒やハガキの宛名のところが「〇〇行」とか「〇〇宛」ってなってて、こっちが「行」とか「宛」を二重線で消して、「〇〇御中」と書き直す、あれのことですよ!類似パターンとして、「ご氏名」の「ご」の部分を二重線で消すってやつもありますな。

例えば結婚式の招待状とか儀礼的なお手紙に関しては、「行」を「御中」に書き直す作業も含めて儀式の一環であり、それはそれで様式美のようなもので結構だと思うのですが、事務手続き上は、さすがにもうやめても良いのではないかい!?

「行」を「御中」に書き直すことは、たいした手間でないと言ったらないのですが、さっきの登録番号の話と一緒で、(はて……この時間は、一体何の時間なのだろうか)と思ってしまうのであります。

どうやらこう考えているのはわたくしだけではないようで、返信用ハガキの宛名が最初から「〇〇御中」となってるのを見ると、おお、この団体は分かってんなーと、わたくしの中では評価が上がる。

それにさー、へりくだるのが古来からの日本人の美徳とはいえ、事務作業のときまでへりくだらなくても良いのではないか!?そして、相手がそうしてへりくだってきたら、それに対してこちらが「御中」と書き直してあげる、つまりフォローしてあげることまでがワンセットとして求められているという、この何とも不思議なしきたり。

「あー、わたしなんて、全然可愛くないからさー……(ちらっ)」
からの、
「そそそんなことないよ!可愛いよ!」
みたいな不毛なやりとりが、今日も日本各地で行われているのであります。まさに、事務作業の効率化を著しく阻害していると言えませんでしょうか!?

だから、わたくしは、あえて今、声高に申し上げたい!日本のビジネスパーソンたちを長らく悩ませてきた、この「御中」問題に、そろそろけりをつけようではありませんか!?

なに?単に書き直すのが面倒だからそう言ってるだけだろって……?
ななな何をおっしゃる!面倒だとか、そんな陳腐な理由ではござらん!わたくしは、日本の事務作業効率化のために……いや、事務作業効率化の観点から、そう提言しているのであります!!

なので、今後わたくしからの返信用封筒の宛名が「御中」に直されてなくても、ニオムラは決して非常識な訳ではなくて、分かっていながらも、あえて自らを犠牲にして、この無用なしきたりを根絶するために、先陣を切っていっているんだなと思っていただきたい……!

とかなんとか熱く言っておきながら、もしわたくしからの返信の宛名が「御中」に直ってたら、あーこいつ日和ったなと笑ってやってくださいな(・∀・)

ま、この「御中」文化が、日本の昔からのしきたりであり、大事な文化ってことは、わたくしもよく承知してるのでありますよ。
でも、文化とかしきたりってのは、ぶっ壊すためにあるんだ!

えっ、何、その暴言( ゚Д゚)
嘘です、さすがにわたくしも言葉が過ぎました。残さなきゃいけない日本の美しい文化は、いっぱいある。建築物とか食とか、お祭りとかね。
でも、時代は絶えず移り変わっていくものでありまして、ときには時代の変化に合わせてわたくしたち自身も変わっていくことが求められているのではないでしょうか。

ということで、うちの事務所も、今回をもって、年賀状をお出しすることをやめることにしました。いやー、年賀状、楽しいんだけどね。お客様のご家族の写真入りのやつとか、一言添えられてるやつとか、実際いただけばすごく嬉しいし、ほっこりするんです。
でも、これも時代の流れかなと。
年賀状でやりとりしなくても、お客様とはちゃんと繋がっていますからね。

気付けば年の瀬。今年も残すところ、あと2週間になり、事務所も繁忙期を迎えようとしております……ブルブル。あ、いや、これは武者震いですよ。
今のところ、例年になく暖かい冬となっていますが、皆さま体調管理にはお気をつけて、良いお年をお迎えください。
それでは、来年も、ニオムラ事務所を、どうぞよろしくお願いいたします。